まいまいしんこ

マイマイ新子と千年の魔法』という映画を観てきました。


昨年末に公開された映画で、ネットや口コミ等で評判を呼び、今でも各地で劇場公開され続けてる、ロングランのアニメ作品です。
ボクも評判は聴いていて「観に行きたいなあ」とは思ってたんですが、なかなかタイミングが合わず、行き遅れてしまってました。そこへ、ツイッター越しに知り合いになった、作家のさべあのまさんから「一緒に観に行きませんか?」というお誘いがあり、「そりゃもう、さべあさんからのお誘いでは、万難を排してでも!」と、釣られるように出掛けた次第です。


ちなみに、さべあさん(http://www.ne.jp/asahi/otasky/hp/)は、以前からボクが絵柄が大好きだった作家さんで、作品はどれも本当に素敵。『マイマイ新子〜』の大ファンで、商売抜きで応援活動をされてるとのこと。この機会に実際お会い出来て、本当に嬉しかったです。『マイマイ新子』と『ツイッター』に大感謝!(笑)


さて映画の感想はというと…ひと言で言うと「とにかく物凄い力作!!」です。


事前に聴いていたウワサや、すでに観た人の感想から、観る前は「特にスペクタクルも、派手さも無く、なんとなくほのぼのとしていて、心があったまる映画」というイメージでしたけど、ボクの印象は全然違いました。
今のアニメ界において、本物の実力を持ち合わせてる監督の一人、片渕須直監督の恐るべき執念の結晶と呼ぶべき、作品。ウワサで「なんとなくほのぼのな名作」という心構えだったボクは、この画面からにじみ出る執念に、終始圧倒されてしまいました。


   以下は、軽いネタバレを含む、詳細な感想です。
    (ネタバレ注意!)


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この作品は、以下の2点の「大きな誤解」を生み易い作品かも、と思いました。
その誤解をひもとく事で、ボクの感想も同時に語れるかと思います。


第一の誤解。
これは、『片渕須直監督による、マッドハウス作品』。


ジブリ作品ではないんです。(笑)
主人公は昭和30年代の小学生の活発な女子だし、田舎に引っ越して来る女の子が登場しますし、農村の緑満載の生活をしてますし、主人公には泣き声のうるさい妹がいますし、その妹がちょっと行方不明になったりしますし、平安時代のたたら場も出てきますが、ジブリ作品ではありません。いわんや宮崎駿作品でもない。そして、それらの作品へのオマージュとかアンチテーゼとかでもないんです。
活発な女の子も、転校生も、緑豊かな農村も、世話の焼ける妹も、過去のたたら場も、日本…いえ、ひょっとしたら世界のどこにでもある当たり前のものであり、ジブリ作品特有の「記号」ではないんです。
けれども、うっかりそれらをジブリ作品の「記号」と思ってそっちにかぶせちゃうと、いちいちつまらない肩すかしをあう事になります。ボクも気をつけてるつもりでしたが、何度かそれを味わってしまい、その度に自分の偏ったものの見方を恥じ入ることになりました。


よって、この映画を見る前には、解ってるつもりでも、
「これはジブリ作品ではない」と3回唱える事を、オススメします。


第二の誤解。
主人公は、『歴史好きの小学3年生、青木新子』。
            

これ、凄く大事!
この最初の前提を見間違えて、本来のストーリーとは違う解釈をされてる方、結構いらっしゃるようです。
劇中で出て来る平安時代の風景は、この主人公・新子ちゃんの「おじいちゃん仕込みの歴史像」であって、マイマイ(=新子の前髪にあるつむじ)がみせる、「いわゆるハリーポッターみたいな魔法」…ではないんです。これは、素直に観ていれば、物語内できちんと説明されてる事なんですが、この「千年前=平安時代」の画面上での描き込みが、半端じゃなく力が入ってるので、つい「新子の想像の世界」ではなく、「新子の世界と同時並行に流れる、平安時代に本当にあった現実」に見えてしまい、物語全体の読み取りを間違えてしまうんじゃないかと思います。


そう。
実はこの作品は、ほのぼのと昔をなつかしむ”情感”の物語ではなく、はっきりと「考古学入門」の物語なんです。
ん〜たとえば、「恐竜の発掘現場で暮らす少年の話」みたいなものかな。
発掘現場を観て、大人の説明から恐竜などの化石に、筋肉をつけ、皮をかぶせ、大地を闊歩する恐竜の姿を、日常的に想像(妄想癖という特別なものじゃなく、ちょっと想像力が豊かな子どもだったら、普通に想い描くレベルの)している少年の話。
ただ、「マイマイ新子〜」は、少年ではなく女の子。
恐竜ではなく、平安時代の人々の暮らし。
発掘現場…も出てきますがそれだけではなく、麦畑のあぜ道や人工の水路、民家や山並みの風景などから想像を膨らましますのです。


基本的に「考古学入門」に猛烈な力点が置かれてるため、新子が生きる世界では、とりたてて大事件は起きませんし、デフォルメされたとんでもないキャラクターも出てきません。


じゃあ、魔法は出てこないかと言うと……出て来るんです。


…というか、観ているこちらが、魔法にかけられます。
ボクの場合は、映画館を出て、劇場から住み慣れた自分の家に向かう道すがら、傍らのお地蔵様の前を通ったとき、その魔法が発動しました。
その時ボクが立っていた道が、アスファルトから未舗装の土に変わり、辺りはうっそうとした森が茂り、畑仕事を終え、野良着姿の疲れたお父さんと、すれ違った気がしたんです。そのお父さんはお地蔵さんの顔をみて家で待つ子ども達の顔を想い、ふと笑顔を浮かべました。そして星を見上げ、さらに数百年〜千年前の世界に想いを馳せてたんです。


歴史が地続きで繋がる実感…。
まさしく考古学脳の初めの一歩!
この映画はそれをくどい説明無しに、ひたすら映像で思い知らせてくれる、まさに「魔法」の作品なんです。


なのでこの作品は映画館で観たら、帰り道の途中で、「ふと立ち止まってみる」のを強くオススメします!!


マイマイ新子と千年の魔法』公式サイト…http://www.mai-mai.jp/index.html


※あぁ〜!この映画には、それこそ某ジブリ作品のような「特別なお地蔵様のシーン」はありません。念のため(笑) お地蔵様のみならず、歴史ある神社仏閣や、鳥居や、昔ながらの道や川や水路や、崖の地層や古い大木や、森や山並みや、季節の風や、夜空の星達…なども、魔法が発動するアイテムだと思います〜。